おんがく会のお弁当

「…あっ」

 小さな悲鳴をあげて、二人はやっぱりその辺をぐるぐる3回ものすごい勢いで回った。まあるいしっぽがぴょこんと飛び出している。あわててひょこりと頭を下げ、二人は手をつないだまま緞帳の向こうに消えていった。

「ダメじゃん、悟浄!頭触っちゃ!!」

 悟空が腰に手を当てて悟浄の鼻先に人差し指を突きつけてえらそうに言う。

「…そんなこた、わーってるよ」
「わかっててもしちゃー一緒じゃん。やっぱりエロ河童じゃ脳みその構造が違うんだ」

 泥宮の木の葉をずらされるとどんなに修行を積んだやつでもたちどころに原型を現してしまう。
 
 そんなことはとっくに悟浄は承知のはずだった。
 しかし、はやしたてる悟空に、めんどくさそうに一瞥だけくれると、悟浄は右手で口を押さえて、そして足を組んで、しばらく何かを考えていた。

「…どうしたんですか、悟浄」

 八戒が、ステンレスのマグカップに温かなお茶を入れ、悟浄の目の前に差し出す。

「…ん?どうもしねーよ」

 カップを受け取ってもやっぱりなんだかどこか遠くを見ている悟浄に、八戒はとても悲しい気持ちになってしまった。
 こんなところに連れ出さなければ、こんな悟浄を見ることもなかったのに。

 ただ、八戒としては、悟浄の誕生日ということを悟浄自身がきっと忘れていたとしても、もしかしたら悟浄にとってそれほど意味のない日でも、もっと言ってしまえば悟浄自身がその日を自覚したくない日であったとしても、悟浄がこの世に生まれてきてくれた、ただそれだけで充分お祝いに値する日であったのだ。
 悟浄は、力の限り八戒の誕生日を祝おうとしてくれた。
 だから、八戒も、力の限り悟浄の誕生日を祝いたいのだ。

 それがエゴだとわかっていても、そう思う気持ちがとめられない。

 …一口、悟浄がお茶を飲んで、ほう、と息を吐いた。そして、八戒を振り返る。

「なあ、さっきの歌、西の方の言葉の歌だろ」
「…そうですね、遠い遠い、西の国の言葉の歌です」

 水筒を抱えて、ひざをきちんと揃えてパイプ椅子に座っていた八戒は、悟浄を向き直って、きちんと答えた。

「俺、バカだからよくわかんない。あれってお祝いの歌なの?」
「……そうですよ」
「どの言葉がお祝いしてんの?」
「HAPPY、という言葉ですね」
「ふー――――――ん」

 そう言うと、悟浄はマグカップの中身をごくごくと飲み干し、口をきちんとぬぐってから、八戒にそのカップを投げて返した。



 

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