おんがく会のお弁当

 太陽が空を駆ける時間は日増しに目に見えて短くなり、木々の陰も長く伸びるようになった今日この頃。

 悟浄はまだ目を覚まさず寝室であたたかい昼の光にむにゃむにゃ言っている。
 あんまり気持ちよさそうに眠っているものだから、たたき起こしにいったはずの八戒は何も言わずにくるりときびすを返して、一人だけのキッチンで自分のためだけにアールグレイをミルクで煮出した紅茶を淹れることにした。

 あたたかな光は窓からかなりはなれているはずのキッチンのテーブルにまでななめに差し込んできて、ポトスの緑色の葉にもやわらかくふりつもっていた。


 こんこん


 かすかに玄関のドアをノックされたような音が八戒の耳に入ってきた。
 しかし、それはごくかすかなもので、しかも玄関のドアの下の方から聞こえてきたために、木の枝か何かがぶつかった音だろう、と八戒は思った。
 そして、沸騰直前のミルクパンを火から下ろし、茶漉しで濾しながら大き目のマグカップにそのミルクティーを注いでいく。


 こんこん、こんにちわ


 か細い声が、今度はついていた。
 八戒は、きっちりと最後の一滴までミルクパンを傾けると、おもむろに玄関の方へと向かって行った。
 こんな昼日中に、そんなことをしてくれる相手に、心当たりは充分あった。


「…こんにちわ」

 玄関のドアを開けて、八戒は、膝を折って、相手の目線に自分の目線を合わせて、にっこり笑ってそう言った。





 

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