おんがく会のお弁当
「そっか」
にかっと笑ってくしゃくしゃと八戒の髪をかき回し、悟浄は嬉しそうにひとことだけそう言った。
「じゃあ、お前が嬉しかったら俺たち永遠に嬉しいんだ」
「……悟浄……」
本当に全く恥ずかしげもなくそんな台詞を平然と言う悟浄に、八戒はくしゃっと笑顔を向けた。
「ええそうですよ。もうほんとこんなどんな新婚バカップルが言うんだ、っていう台詞を言われても吹き出さずに嬉しくなっちゃうくらい、嬉しいですよ」
「……そうかなあ」
「そうですよ」
いつの間にか八戒の腰に両腕を回して、悟浄は口調は少し不服そうに、でもその紅の瞳には笑みをたたえて言う。
誕生日を厭っていたであろうそんな悟浄が、そうやって笑ったり、嬉しくなったりしてくれることが、八戒にはとてもとてもとても嬉しかった。
勿論、そうやって悟浄が笑えるのは、悟浄自身が解決した悟浄自身の何かがあったからだろう。自分がいたから、などとは到底思えない。
だけれど、大切な、大切な悟浄がこうやってこの世に生まれてきてくれたこの日を、八戒は心のそこからお祝いしたかった。どうやってこのお祝いしたいという気持ちを伝えればよいかわからなかったから、世間一般が力の限りお祝いするという誕生日を演出してみたくなった。だから。
「それより悟浄。このケーキ、きっちり食べてもらいますからね」
「…………マジ?」
「あなた、僕の誕生日のときには僕に死ぬ思いで食べさせておいて、自分は知らんふりを決め込もう、なんて思ってないでしょうね」
「…………………よーーーーーくわかりました」
「ホールケーキって大きいほど幸福も大きいんでしょう?茲燕さんから教わりました」
「……ナルホド」
そう言ってするりと悟浄の腕を抜け出して、八戒は、その白いケーキのチョコレートソースがかかっていないところに色とりどりの細い蝋燭をうえた。 そして、マッチ1本で器用に全部に火をつけると、悟浄を振り返った。
「世間一般はですね。こうやって蝋燭をケーキにうえて、歌を一通り歌ってから、その火を一気に吹き消すんですよ」
「…ほんと?」
「やですねー、疑ってるんですか?それなら今度趙量さんに聞いてみてくださいよ」
「……いや、いい」
なんとなくそれをきいたときの趙量の反応が想像できて、悟浄は、ケーキの前にどっかと座った。
「…ここに書いてあるのと同じ歌ですよ。さっき、二人組みにも歌ってもらいましたよね」
そう言って、八戒は、一人できっちり「HAPPY BIRTHDAY TO YOU」を歌った。
悟浄は、一気に蝋燭を吹き消す。
「誕生日、おめでとうございます。悟浄、あなたがうまれてきてくれて本当によかった」
そう言って微笑んだ八戒をぎゅう、と抱きしめて、悟浄は黙ってその形の整った唇を自分の唇でふさいだ。
遠い月明かりのはらっぱでは、ぽんぽこいう腹鼓の音とともに、やはり「HAPPY BIRTHDAY TO YOU」がなぜだか歌われていた。勿論、そこの毛むくじゃらの哺乳類たちには、八戒の口から漏れる「ふしぎなこえ」は聞こえなかった。
このお話の番外編を近いうちにアップします。「あれ?」とこころに引っかかった方、少々お待ちくださいませ。