おんがく会のお弁当
こういうところの音楽会といえば、例えばはらづつみを打つもんだとばかり悟浄は思い込んでいた。
「…………それはちょっと時代遅れなんじゃないですか」
その考えを八戒に述べてみると、八戒はたっぷり58秒は沈黙した後、曖昧な笑顔を悟浄に向けながら答えた。
「…だってこいつら、歌なんか歌えるのかよ?」
「そりゃああの子達に失礼でしょう」
悟浄の隣のパイプ椅子に座って、八戒はにこにこしながら緞帳の上がるのを待っていた。
その隣にはお弁当の匂いによだれをたらしている悟空と、「何で俺がパイプ椅子なんぞに座らなきゃいけないんだ」と顔に書いてある三蔵がふんぞり返って座っている。
「まあどこぞのエロ河童よりはよっぽど歌はうまいだろうな」
座ることにあっという間に飽きてしまった悟空が早速悟浄にちょっかいをかける。
「…何だとこのクソザル!!言わしておけば…!」
ほおっておけばよいのに、悟浄も速攻暇を持て余していたせいか、きちんと相手をしてやるところが同レベルだと八戒と三蔵はそれぞれの言葉でそれを胸の中で確認した。
「だってゴキブリに歌なんか歌えるわけないじゃん」
「なんだとこのエセ哺乳類っ!いや、てめーなんざ哺乳類にも進化しちゃーいない単細胞生物だ!アメーバだ!ゾウリムシだ!プラナリアだっっっっ!!」
勢いよくまくし立てる悟浄に悟空は一瞬怯んで、怯んだことにかなり不愉快になったようで、悟浄の前に一歩出てばちばちと火花を散らしてみる。
「んー――なんだかよくわからないけどバカにされてる気がするぞ」
「けっ、てめーの足りない脳みそでいっくら考えてもわかるか」
「…まあまあふたりとも。そろそろ始まりますから。―――ごはん、いらないんですか?」
にっこり笑った八戒のその言葉、特に最後のひとことに、一瞬のうちにして二人は矛先を納め、自分のパイプ椅子に座りなおした。
「八戒がつくったお弁当」という極上の餌をちらつかせられてはぐうの音もでなくなるのは当然だった。
食べ物なら見境なく何でも食べる悟空は勿論のこと、当然悟浄も、そして、とてもそうは見えないそもそも「欲」を持ってはいけないはずの三蔵にすらその餌は絶大な影響を及ぼしていた。
…しかし、当の八戒は、その効果を知っていて餌をちらつかせているのだろうか……?
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