Birthday Card 4
そのカードを読み終わって悟浄が顔を上げると、先ほどまでは確かにそこになかったはずのガラスの壷が出現していた。何度目をこすってみてもその壷はなくならない。悟浄は混乱してきて、とりあえず最大の疑問を口に出した。
「……クリームを塗れってどういうことだ?」
そんな要求を生まれてこの方出されたことはない。ないのだが、問題にするところはそこだろうかと内心で三蔵は思った。もっともあのエロ河童が何を問題にしようと三蔵の知ったことではない。
そんな中、八戒がぽん、と右手を左手に打ちつけた。
「わかりましたよ。これは、外が非常に寒いじゃないですか。部屋の中があんまり暖かいとひびが切れるから、その予防だと思われますね。ここまで気を遣っていただけるなんてすごい高級レストランですね」
にこにこと笑って八戒が言う。悟浄はとりあえず壷の中を覗き込んでみた。白いクリームが壷の中に満たされている。
もうほとんどやけくそで、その壷の中のクリームを悟浄は顔に塗った。あと、手と足にも塗った。およそ世間でひびが切れそうだと思われるところにほとんど塗ったにもかかわらず、壷の中にクリームはたくさん残っていた。
そして、その残ったクリームは腹をすかした悟空の手によって無駄なく処分されることになった。
「これ牛乳のクリームだぜ」
……身体に塗るためのクリームをおいしいおいしいと食べている悟空も悟空だが、それほどまでにおいしいものなのだろうかと悟浄は首をかしげた。残ったクリームは全部悟空に取られてしまったので、自分で味見ができなかったのが少々残念に思えた。
…そう思ったとたん悟浄は自分の思考回路が怪しい方面になだれ込んでいきかけていることを自覚し、真っ青な顔をして八戒の持つカードの束から次のカードを選んだ。
そのカードを読んだ悟浄の表情が明らかに引きつっている。
「クリームをよく塗りましたか。耳にもよく塗りましたか」