BIRTHDAY CARD 3




「…ナニこれ」

 目の前に突き出された白い紙を見て悟空はおそるおそる事実を確認してみた。

「やだなあ。悟空。決まってるじゃないですか」

 にこにこと笑う八戒につられて、悟空は頬をひくつかせながら笑って、それを拒絶しようとした。

「……」

 にこにこにこと笑う八戒の背景に見る間に暗雲が立ち込めているのが手にとるようにわかったが悟空もここは譲れないとばかりに二人してにこにこ笑いながら沈黙を続ける。

「往生際が悪いですよ、悟空。どうせ書かなきゃいけないんだから素直に書いてしまえばいいのに」
「なんでどうせ書かなきゃいけないんだよ!」

 悟空の質問は確かにしごく大変めちゃくちゃごもっともだったが、八戒はそれをさらりと聞き流し、更に悟空の目の前に紙とペンとを突きつける。

「何度もルールを繰り返すつもりはありませんが1000字以上は書いたほうがいいですよ。ええ。これは僕の心からの忠告です」
「…だーかーらーーーーーー。なんでだよっっっ」

 その悟空の言葉にがっくりと肩を落とし、八戒は悟空の肩に本、と手をやりうつむき加減で小さな声でしゃべった。

「…僕が悟浄の誕生日を心から祝おうと思っていることが、悟空には迷惑ですか…?」

 あまりに激しく八戒が落ち込んでしまったので悟空としてはおろおろしてしまった。とりあえず悟空は八戒がかなしい顔をすることに大変弱かった。

「そんなこと…ないけど……」
「じゃあなんでそんなに抵抗するんですか」

 更に八戒に詰め寄られて悟空は言葉に詰まってしまった。抵抗する理由なんてそんなもの言わなくても誰にでも明らかにわかりすぎるほどわかりすぎるのだが…

「だって……」
「だってなんです」
「だって八戒、悟浄贔屓しすぎ」

 意表をついた言葉が悟空の口から出て、八戒は目を真ん丸くして悟空をじっと見詰めてしまった。

「…どういうことですか?」

 心の底から不思議だという顔をして、八戒が悟空の肩に手を置いたまま悟空の表情を読み取ろうと首をかしげる。悟空は、困った顔をして言葉を捜していたが、所詮脳味噌まで胃袋の猿(悟浄談)にはそんな芸当はできなかったようだ。

「だって八戒、悟浄の誕生日の時にははりきってそうやってカードとかいっぱい企画して書いてやろうとするけど、三蔵のときなんか全然ないじゃないか」
「…ああ、そんなことでしたか」

 にっこり笑って八戒は悟空の肩から手を離し、両腕をおなかの上あたりでくんで答えた。

「いいですか、悟空。僕は、相手にあったお祝いをしようとしているだけですから。三蔵の性格はあなたが一番よく知ってるでしょう?」
「う…ん」
「三蔵は、おごらせるのは好きですが、おごられるのは嫌いだと思いませんか?」
「…確かに……」
「だから、僕は三蔵の誕生日にはカードを贈ることをやめてるんですよ」

 にっこり笑って答える八戒になんとなく巻き込まれて悟空はあいまいにうんと返事してとりあえずその言葉に突っ込むことはやめにした。
 何故八戒の中ではカードを送る=何かゲームをする=おごる という図式が出来上がっているのかという素朴な疑問は、素朴なだけに地雷や虎の尻尾を踏みつける危険性があることくらいは本能で嗅ぎ取っていたらしく、無言で1000字以上の文章を書き付けて、悟空はその紙を八戒になげてよこした。
 

 そして、三蔵と同じように書きたくもないものを書いた右手を一刻でも早く洗浄しに、洗面所へと向かって走って行った。







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