Three days




11月8日



 珍しく悟浄が早起きをした。早起きといっても8時は過ぎていたが、悟浄の日常からするとこれはめったにない早起きということになる。朝食を終えてコーヒーを飲んでいた八戒は、おはようございますと声をかけてから「朝ごはんを食べますか」と聞いた。

「おまえは、もう終わったんだろ。コーヒーだけでいいよ」

「トーストと玉子だったら、10分で出来ますよ。悟浄、夕べもちゃんと食べてないでしょう?」

「ん、じゃ頼むわ」

 きっかり10分で厚切りのバタートーストに目玉焼き、林檎とくるみのはいったコールスローサラダが添えられた皿が悟浄の前に置かれた。新しく落とされたコーヒーを自分と悟浄のカップに注いでから八戒は腰を降ろした。

「野菜もちゃんと食べなきゃだめですよ」

「・・・」
こいつは、ヨメかおふくろか。上目使いで自分を見る悟浄に八戒は無敵の笑顔を返した。

「悟浄、明日のことなんですけど」

「ん?覚えてるぜ。買いだしに付き合うんだろ」

そうじゃないんですけどね。そういうことにしておきますか。
「僕、明日お休みなんですよ。久しぶりになんか凝ったものを作りたいな、なんて思って
いるんですけど。何かリクエストありませんか」

「おっ、いいね。久しぶりに八戒さんの手料理。つってもコレもそうか」

「食べてくれる人がいないと作る気にならないんですよ」

「だからって、サルは呼ぶなよ。あいつが来ると一気に一月分の食費が飛ぶ。そうだな・・・」
悟浄の視線が少し宙に浮いた。

「三角のおにぎりと卵焼き。それにトリの唐揚げ」

「ごじょおー。僕、凝ったものって言いませんでしたっけ。それじゃ、遠足のお弁当ですよ」

「なんでよ。全部好物だし、八戒の美味いし」

 しょうがないですね、まあ悟浄のリクエストですからと八戒は答えた。そしていくらなんでもこれでは誕生日のお祝いにはならないと、内心でため息をついた。
 いっそこと、タコさんウィンナーにウサギリンゴをつけて、デザートはバナナで決まりにしようか、とさえ思ってしまった。
 それとも、誕生日をさりげなく祝いたいという八戒の気持ちに気がついて、余計なことだと言外に告げているのだろうか。

「出掛ける前に洗い物を済ませてしまいますね。それ終わったら台所に運んでくださいね」

 悟浄は自分の誕生日が嫌いなのだ。多分、そのことは確実で。何も話さない悟浄の過去がそのことに示されているような気がして、八戒は少し沈んだ気分になった。決して恵まれたものではない自分の生い立ちと同じような傷を同居人が抱えているのではないかと、なんとなく察することはできた。それでも自分はこの人の誕生日を自分なりに祝いたいのだ、と八戒は改めて思った。

 八戒が手を赤くして洗い物をしていると、悟浄が食べ終えた皿とカップを運んできた。

「そう言えば俺も買うものがあったんだ。ちょうどいいな」

「そうなんですか?それじゃ明日は遅くてもお昼には起きてくださいね」

「はい、はい」

 そしてこの日、八戒は悟浄に「いってらしゃい」と見送られて仕事に出掛けるという同居を始めて以来、初めてで二度目は一体あるのだろうかという貴重な体験をした。





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