おんがく会のお弁当

「特別な日ってなに?」

 口の周りにごはん粒をいっぱいつけて悟空が八戒に問う。
 ご飯粒をぬぐうためのハンカチを渡してやりながら八戒は苦笑して、口を開いた。

「僕にとってとても大切な日ですよ」
「だからなんだよー」
「当ててみてくださいよ」

 適当にはぐらかしておくつもりだったが、悟空は案外しつこかった。次から次へと「大切な日」を並べ立てていく。

「う――んと、クリスマス!」
「……ちがうと思いますけど」
「じゃああれ、は…ろうぃん!」
「……ちがいます」
「勤労感謝の日だ!」
「…そー言うんじゃありません」

 悟空がそれに夢中になっている間これ幸いと悟浄はお目当てのからあげを次から次へと口にほおりこんでいく。
 ものすごく満足そうな顔をする悟浄をみて、八戒もとても嬉しくなってきた。

「んじゃー、そうだ!ジープの誕生日!!」
「……一番に出てくるのはジープですか?」
「ちがうの?じゃあ八戒の誕生日?」
「僕の誕生日は違う月ですよ」
「あ、ずりー、全然教えてくんなかったじゃん、八戒の誕生日さー」
「教えるものじゃありませんよ」
「いーや、俺は知りたい!いつ、いつ??」
「ナイショです」
「何でー――」

 ほおをぷうっと膨らませて、悟空は散々ごねている。八戒は、最後のひじきの煎り煮を口に運ぶと、ちら、と悟浄のほうをみた。
 悟浄は、柿と林檎を同時に掴もうとしてどうしてもうまくいかず、少々癇癪を起こしているようだ。
 すっかり自分の分を食べ終わり、食後のお茶まできれいに飲み干した三蔵はおもむろにハリセンを取り出すと、目の前のペットの頭をすぱーんとはたいた。

「うるせーんだよっ、このクソ猿!!!」
「いってーなー、なにすんだよっ、三蔵!!」

 ひりひりする頭をなでさすりながら悟空が至極まっとうな言葉を口にする。

「…フン、八戒の誕生日は9月21日だ。今日じゃない」
「…えーーー!!どうして八戒教えてくれなかったんだよー!!!」
「わざわざ教えるほどのものじゃないでしょう」

 そうしてもう一度八戒は悟浄のほうを見た。柿と林檎に満足したらしい悟浄はふんぞり返ってパイプ椅子を3つ占領している。

「…じゃあ、今日って一体なんで八戒の大切な日なの?」
「それは……」

 口篭もる八戒の隣で、三蔵は煙草を取り出して口にくわえ、ジッポーを取り出そうとしたところでここは学校だということに気付いたらしく、小さく舌打ちをしてからこう言った。

「どうせ貴様のことだ。自分のことなんぞじゃなく、あのクソエロ人類の敵河童の誕生日か何かだろう」





 

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