おんがく会のお弁当
「「こんにちわ」」
小さな女の子二人が、手をつないでとたとたとた、とかけてきた。まあるい耳がぴょこんと出ているが、しっぽはかろうじてまだ隠れているようだった。
「「私たち、お客様のために、歌を歌いにきたんです」」
にこにこ笑って、手をつないだままの二人は同時にことんと首をかしげ、それからぴょこんとお辞儀をした。
「…それはありがとうございます」
八戒は膝をおり、女の子の目線に下がって、にっこり笑い返した。二人もつられて嬉しくなったようで、にっこり微笑み返してくれる。もう少しでぽんぽん、と頭に手を載せようとして、それはまずいだろうということに八戒は気づき、上げかけた手を腰の後ろに回してしまったのでかなりおかしな格好をとることになってしまった。
「なに歌ってくれんの?」
悟空もとても嬉しそうに、同じように膝をおって、その上に手を組み、あごを乗せて、そうすると少し女の子たちの目線より舌になってしまうので仕方なく上目遣いに彼女らを見上げながら言った。
「お客様のりくえすとにおこたえするようにっていわれました」
「だから、何でもおっしゃってくださいv」
相変わらず二人手をつないだままで、にこにこしながら言う。
「「私たち、歌うのが大好きなんですv」」
…後ろの方からかすかな舌打ちの音が聞こえてきた。この子達のひとことで、きっと三蔵は全てを理解したに違いなかった。あのたぬきおやじ校長の「玄奘三蔵法師様のご機嫌伺い」にこの子達は利用されているのだと。
こうやって、三蔵に少しでも近づくために、へんてこなプログラムまで作ってわざわざこの子達をここによこしたのだと。
「だったらさー、ちょうど悟浄誕生日なんだったらさー、誕生日おめでとう、の歌、歌ってもらえばいーじゃん」
悟空が無邪気に至極ごもっともな提案をする。それはどこの誰が聞いても完璧な理論で、1ミクロンも口をはさむ隙はなかった。
「悟浄さん、お誕生日なんですか?」
「だから八戒さんのお弁当、とても美味しそうだったんですね」
「おうちでケーキを食べられましたか?」
「三蔵様はえらいお坊様だからきっとすごい誕生日のパーティーするんでしょうね」
「いいですねv」
「いいですねvv」
1年生の思考回路は単純一直線で、全て世界が自分の周りと同じように回っていると思っている。
きっとこの二人はたくさんの愛情をたくさん受けて、誕生日といえば「いいですねv」ということのできる体験しかしたことがなかったのだろう。
だから、悟浄の誕生日も、きっと、いいものだと。
誕生日というものは、いいものだと。
そう思ったのだろう。
「それでは私たち、悟浄さんのために歌いますねv」
そう言って、二人はやはり手をつないだまま、歌いだした。
HAPPY BIRTHDAY TO YOU
HAPPY BIRTHDAY TO YOU
HAPPY BIRTHDAY DEAR 悟浄さん
HAPPY BIRTHDAY TO YOU
……ものすごく複雑な表情を一瞬だけ悟浄はし、それを半瞬後には引っ込めると、ふんぞり返ってその歌を最後まで聞き終わり、くしゃくしゃと笑って、おなじようにくしゃくしゃと二人の頭をかき混ぜた。
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