おんがく会のお弁当

「歓迎 三蔵法師ご一行様」


横断幕にでかでかと書かれたその言葉に悟浄はくわえたハイライトの灰がぽとりと落ちるまで呆然とそれを見つめてしまっていた。


「やっぱり三蔵たちのおまけですよね。僕たち。悟空の分もお弁当作ってきてよかったー」

 八戒が苦笑しながらつぶやく。所詮は、「玄奘三蔵法師様とお近づきになろう」キャンペーンの一環だとしても、八戒はとにかく、悟浄とお弁当をもって出かける、という非日常の体験ができたことが嬉しかった。

 隣で、重箱を抱えたまま絶句している悟浄の肘を少し引っ張り、八戒は、欅の校門をくぐる。


「……なんだ、貴様らも招待されたのか」

 まばゆいばかりに輝く黄金の髪を轟然とやわらかい光に反射させ、キャンペーンの主目的の人物は悟浄と八戒に言葉を投げつけてきた。
 悟浄はいやそうに顔をしかめ、八戒は、にっこり笑ってその声の持ち主を振りかえった。

「やっぱり三蔵と悟空も招待されていたんですね。
「やっぱり、って八戒それ、知ってたの?」
「いえ、知りませんでしたけど、だいたいそんなところじゃないかなー、って」
 
 悟浄の手の中の大きな包みにちぎれんばかりにしっぽを振っている悟空が八戒にじゃれ付く。
 明らかに、そのお弁当を狙っているのは誰がどこをどう見ても明白な事実であった。

「八戒、お弁当作ってきたんだ」
「そうですねえ。だいたいこういうことになるとは予想してましたからね」

 …確かに悟浄もこの重箱は大きすぎるとは思っていたのだ。
 しかし、この、八戒の丹精こめたお弁当があの鬼畜生臭坊主や脳みそ胃袋クソ猿の胃袋におさまるかと思うと、どうにもこうにも腹が立ってくる。

 八戒のお弁当など、一緒に暮らしている自分でさえ(というか、一緒に暮らしているからこそ)あまり食べたことがないレアものなのに。

 ……とにかく悟浄は、この美味しいお弁当を確保しなければならない、とますますガードを硬くして、体育館に用意されたパイプ椅子に、どかりと腰をおろした。


 

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