Birthday Card 4
どうしてこの男は毎年毎年毎年毎年同じネタを飽きもせず持ち込んでくるのだろうと金髪の最高僧はそう思った。
目の前には、いつもこの時期になるとやってくる、濃いこげ茶色の髪と美しい碧色の瞳を持つ一見好青年がにこにこと紙とペンとを握って立っている。
「いやー、三蔵、毎年ありがとうございます。快く悟浄の誕生日のお祝いをしてくださってv」
ハートマーク付きで言われたところで嬉しくも何ともない三蔵は、ぎろりと八戒を睨みつけた。当然八戒にはそんな脅しは一向に効かず、というか気づいてもらえず、毎年力尽きてペンと紙とを受け取るのも恒例行事の一つだった。
「あ、三蔵。今年はちょっと趣向を凝らしていますので、よく僕の説明を聞いてくださいね」
毎年毎年毎年毎年趣向を凝らしやがってと三蔵は心の中で悪態をついた。ここまで趣向を凝らされると、悟浄ならずとも念の入った嫌がらせかと口に出したくもなってくる。いや、そんなことを口に出した日にはどんなことが起こるかわからないことくらい三蔵は想像がついていたので、それを決して口に出すことはなかったのだけれども。
「今年は悟浄をレストランに招待しようと思うんです。せっかく誕生日ですから」
「……で?」
「三蔵、あなたは趣向を凝らして悟浄に招待状を書いてください」
「………!!!」
…どこをどうしたら自分があのクソエロ河童をもてなさなければならない立場になるのだろう、と三蔵は考えた。自分は仮にも最高僧と呼ばれる身分ではなかったのだろうか。そんな最高僧がどうしてこんな身の毛もよだつようなことをしなければならないのだろう、と真剣に思った。
「あ、勿論わかってると思いますけれど、どれを誰が書いたか悟浄に当てられたらその人のおごりですからね」
にこにこと笑って八戒は言う。
「そうそう、その招待状は、一つだけ書式が決まってます。必ず最後に悟浄に何かしてもらってください。例えば、いい服を着てもらうとか、シャツのボタンを上まできちんと留めるとか」
「………」
何をどう反論しても無駄なことを三蔵はよく知っていたので、例年のごとく、黙ってペンを受け取り、黙って紙に言葉を書き付け、黙って八戒にそれを返した。
「ありがとうございます三蔵vすばやくかいてくださって僕もとっても助かりました」
にっこり笑顔を一つ残して、八戒は次のターゲットへと移動したようだ。
三蔵は、その背中を見送ると、もはやこれも年中行事と化している、「書きたくもないことを書き綴った右手」を痛いほど石鹸で洗うために井戸へと向かった。